トロントFCで活躍する遠藤翼選手は、カナダのプロフェッショナルチーム、アメリカでのカレッジリーグでプレーする中で、コンディショニングに対するアプローチの違いも体感してきました。今回は、日本のサッカーエリートコースも経験している遠藤翼選手だからこその、サッカー選手のコンディショニングへの視点についてうかがってきました。
遠藤翼選手専用のプログラム
(そういう北米での経験を経て)コンディショニングへのアプローチは変わりましたか?
そうですね。クラブでは、ウォークロード(workload)を管理する人と毎日話し、僕の感覚やフィーリングに合わせて「この日はこれだけの追加トレーニングをしていい」のように、僕専用のプログラムを変える、ということをやっています。「今日は重いな」と思ったら、自分だけ違うトレーニングをする。毎日のコミュニケーションを大事にしてプログラムを決めてます。
そういう個人のコンディショニングを診てトレーニングを決める、という習慣は日本でもあるんですか?
プロではあると思います。でも、大学とかではそういう環境はないんじゃないですかね。
正しいトレーニング、サッカー選手を守るトレーニング
いろんな競技のプロフェッショナル・アマチュアアスリートを診てきましたが、アマチュアスポーツでのコンディショニングには改善する機会がまだあるんじゃないか、と感じているんです。「とりあえず走る」だったり、怪我してもアイシングだけして我慢する、みたいなことを、今も聞いたりすることがあります。
日本でプロとしてやったことやったことがないから、なんとも言えないんですけど、アマチュアでは仕方がない、という感じもあるかもしれないですね。
限界までやる、ことで得られるものがあることは個人的には理解する面もあるんだけど、「体を壊したら元も子もない」「アマチュアでも越えちゃいけない線を引いたほうがいい」というのがマッサージセラピストとしての僕の考え方です。
追い込むことによる利点はあるとは思います。でも、一週間のトレーニングの中で、4、5日間、その限界を超えるトレーニングするっていうのは理論的にありえないとも思います。高校でも、中学でもそういうトレーニングの仕方は、理想的ではないですよね。例えば、一週間に一回だけ本当に厳しいトレーニングも走り込みだけとかそういうふうにするんだったら、まだわかる。やっぱりバランス、ということになりますよね。
指導者がどこまで面倒見るか、指導するときにここは気を付けてよ、という点はあります。筋肉の状態を診たら、これ以上走っても意味がない、のに走ってしまっているというケースはある。でも体のコンディショニングの考えが伝わっていない・整っていない環境でやっていて、結局は自己責任になる面もある。翼選手から見て、どのように自分で自分の体を管理するといいのでしょうか?
追い込むことで、選手としてはやり切った感、満足感はでるのは事実。そして、それ自体は悪くはない面もあると思います。自分としては、中学・高校の時は若いから乗り切れちゃったのはある。
でも、それを大学やプロになっても続けるのではなくて、正しくトレーニングと自分の体を理解して、バランスのとれたトレーニングをしないと思います。
アスリートは、一般的には鍛える系のことが重視されるけど、僕はちょっと異なる視点、アスリートを守るという視点、を持っているんです。翼選手は、毎日体をコンディショニングしてくれる人がいて、ハイレベルで診てもらっているからとてもいい体の状態をしている。そんな中でも、僕みたいに、ちょっと角度が違うところから見ると、まだやれるところがあるのが自分の価値だし、面白い点だと思います。
人気スポーツになればなるほど、要求レベルが高く・早くなってきているんです。人間の体はそこまで進化していないので、僕からみると小さい時にトレーニングを「前倒している」ように見える。小さい時からがんがんやることで、その要求レベルを満たすようになることは、「長くプレイして、いっぱい出番があって、活躍したほうがいいよね」、という考えとは相反することも多いです。そのような問題提起を行うことも大切だと考えています。