プロフットボールと足首の関係性

フットボール選手へのコンディショニング方法

カナディアンフットボール Toronto Argonauts にキッカーとして所属する選手との出会いは、選手がトロントに来てから数ヶ月後。
なかなかキックの調子が上がらない時期でした。

フィールドゴールの日本記録保持者である本人は、今まで培った知識を総動員してスランプ脱出に取り組んでいましたが、
良い方向に向かわず、少し困った状況でした。

「数人の友人に強押しされた」とクリニックを訪れてくれたのです。

本人に状況説明を受けた時の、私の一言目。
「難しく考えすぎじゃない?」

コンタクトスポーツという危険を伴うスポーツという事もあり、フットボール特有の練習方法、 コンディショニング方法が確立されている感があり
本人もそれを信用しているので、自分の知識をもってキックの状態を好転できないということに、戸惑っている様子でした。

私は、それだけ色々な事をトライして結果が出ないのは、何か間違っている可能性が高く、同じ線路上でもがいても好転しにくいのでは?
と考えました。

また、本人が言う所の “難しい理論” を実践するような体の状態にない
と言った印象を強く受けました。

そこで、まず足首を触ってみたところ、完全なコンディション出なかったので
「足首硬い人が、あんな難しい事言ってどうすんねん!」
と感じ、
「難しく考えすぎじゃない?」
につながった、というわけです。

このような私の感覚をお伝えしたとしても、実際に結果を出さなければ選手に対して何の説得力も無いので、
ひとまず、選手の理論は無視して、TAD流コンディショニングで勝負する事にしました。

彼は、初めこそは、怪訝そうな顔をしていましたが、素直な性格だったためこちらの指示にきちんと従ってもらえたので、
結果が出るまでは、さほど時間がかからずに、プロデビュー戦前までに、
キックの状態を改善する事が出来ました。

この経験から気が付いた、また選手から学んだ足首のコンディショニング方法のポイントをご紹介します。

フットボール選手の足首のコンディショニング

フットボールは強いコンタクトがあるスポーツなので、安全面から、一定レベルの首の強さになるまでは、フィールドでの練習は認められないという決まりを設けているチームが多いそうです。

練習の特徴は、週6日練習日があるとしたら3日が実戦に近い動きの練習。
残り3日はウェート・トレーニングとフィールド・トレーニングの2メニューに分けて行う。

プロの場合、コンタクトによる脳震盪のリスクを減らすということや
各チームの練習時間を制限し、公平性を保つ、などの理由により
そのような練習のやり方をしているようですね。

キッカーとクォーターバック以外の選手の皆さん、強いコンタクトがあるので、とりあえず筋肉をつけて体を大きくする選手が多いそうです。
ただ、私のところにやってきた彼は、必要のない筋肉をつけるのは体が重くなるし、怪我のリスクも上がる、という事を学び、
それからは、プレー向上に繋げるための、自分に合った、自分に必要なボリュームのトレーニングする事を心がけている、とのことでした。

フットボール選手用の決まったルーティーンというものがあるわけではなく、今までの選手生活の中で怪我をしたり、不調になった時に一つ一つ解決してきた方法を積み重ねて、自分流にカスタマイズしたトレーニングを完成させたのですね。

自分流トレーニングを見つけるまで

① NFLのトップ選手にできていて、自分にできていない動きを、映像などから見つける

② できない理由が、技術的問題なのか、体の違いによる問題なのかを見極める

③技術的な問題である場合は、自分の考え方や体の使い方を変えて改善する

④体の問題である場合は、目標とする動きを実現するために、自分に何が足りないかを専門家に見極めてもらい、ピンポイントで筋肉を強化したり、関節を緩めたりして改善する

足首のコンディショニングがなぜ重要なのか

コンディショニングの切り口、ポイントはさまざまですが
今回は下半身にフォーカスしたコンディショニングのお話をしたいと思います。

選手からは、次のような説明を受けました。

キッカーは自分が生み出したパワーをボールに伝えなくてはいけない。
ディフェンスが、直接相手にぶつけるのとは、ちからの伝え方が違う。

ボールを蹴る動作がいくら強くても、軸足のポジションをしっかりしないとボールに力が伝わらない。
そのため、フォームの細かい部分まで気になる。

これらの事情から、今回はキック状態改善の為に、足首のコンディショニングに勝負をかけることにしました。

足首の動きを安定させるために、取り組んだのは足首の「可動域」の改善です。

選手曰く、
「下半身の始動の仕方、上半身+腕のコントロール、舌のポジションまで気にする」
というほどの繊細な動きが要求されるはずなのに、足首の動きが今ひとつであるという点が、非常に気になったからです。

実は、足首というところは、細かくコンディショニングする機会が少なくて、きちんとコンディショニングに取り組んでいる人ですら、見落としがちなポイントでもあります。

彼は
「今さら、何で足首?」
的な表情でしたが、アドバイスはとりあえず素直に受け止めるポリシーとのことで、左右 甲側 足底側 の動きの改善から取り組んでくれました。

特に、足首の左右の動きのバランスを整えてみたところ、本人が変化を実感してくれたので、基本から丁寧に見直していくTAD流アプローチを、よりスムーズに受け入れてもらえたようです。

今回のケースでは、選手本人のコンディショニングに対する意識も知識のレベルも高かったのですが、
それが逆に足を引っ張るケースもあると言う面白い経験でした。

知識が蓄積されてレベルアップしていたつもりが、基本中の基本の主要関節の動きの確認がおろそかになっているのに気づかなかったのです。

TAD流のコンディショニングの後に

難しいテクニックは、基本的な体の動きが出来きた上での話!
と選手が気がついてくれたのが、今回の最大の収穫であり、皆さんにお伝えしたいポイントです。

この様に、一見、選手本人の考え方と全く合わないようなTAD流コンディショニングであっても、その真意を理解して素直に取り組み、良いところを吸収してしまう、というところが、選手自身がいろんな障害を克服したり
自身の壁を乗り越えることができるポイントであると思います。

日本という舞台を出て大きく羽ばたき、NFLを目標とするレベルにあるような選手がもつ、才能の片鱗は、素直さと地道な努力により大きく伸びているのではないかと感じましたし、
私自身もコンディショニングの真剣勝負を楽しみながら取り組んだエピソードです。