長年アスリートのサポートに携わっていると、世代交代の場面にも遭遇します。上位を目指している時は、ガムシャラに突き進むだけで済みますが、トップポジションにいる選手は自分の事だけ考えているわけにもいきません。なぜかというと、ナショナルチームを牽引する役目を担うことになるからです。
フィギュアスケートのナショナルチームを牽引するとは
フィギュアスケートの国際試合で自国チーム勝つ可能性を高めるためには、その国からより多くの確保が必要となります。一人の選手に頼ると、どうしても成績に好不調が出てしまうからです。
自国出場枠の数を増やすには、多くの場合ナショナルチームとして総合成績を良くする事が要求されます。結果として、本来は自身のライバルでもある後輩アスリートの成績にも気を配る必要があるのです。
ライバルのパフォーマンスも考慮すると、下手をすると自分の首を絞める行為。なので、先輩選手全員が出来るわけでは無いと思われますが、かつて美しい光景に遭遇した事があります。
オリンピックのフィギュアスケート出場枠をかけて
この時、オリンピックの出場枠のかかった試合で日本チームの出だしが不調。このままでは出場枠が狭くなってしまう状況でした。
アリーナからの帰りのシャトルバスの中で、悪成績に落ち込んでる後輩は先輩選手から声をかけられました。
「俺は、怪我もあるから、悪いけどこれで精一杯」
「この試合は、お前が頑張って日本の出場枠増やしてくれ!」
と、まるで先輩からのバトンを渡してくれるような言葉をかけてくれました。
正直に申し上げて、私達のチームは後輩チームをサポートすることが役目だったので、恥ずかしながらこの先輩選手をある意味敵視し、自分達チームの成績だけ考えていたので、驚くべき行動でした。
しかし、強烈にライバル視する一方、いままで目標としてきた憧れの選手である事に変わりはありません。この言葉は、私にはもちろんのこと、後輩スケーターの心に届いた様子でした。
日本ナショナルチーム、出場枠の獲得
翌日の試合、後輩スケーターは、普段見られる「あそこが痛い」などの意識が散る癖が収まり試合に集中する事が出来きました。日本チームは出場枠を増やす事に成功しましたのです。
この1つ増やした出場枠が、結果として激戦となった翌シーズンでのオリンピック出場権争いで、苦しい立場になった自分自身を救い、オリンピックで本番の好成績へと導く事となったのです。
後のチャンピオンを生んだ、先輩エースの言葉
この経験から、トップアスリートの好成績への道は、先人・先輩を含む、色々な人のサポートの上に成り立っていることを実感させられました。
また、このエースの言葉がなければ、後のチャンピオンが生まれていなかった可能性があると考えると、個人競技においても、ナショナルチームのエースに求められることは、自分本位でなくチームのためにも戦える選手になること、を学んだエピソードでした。