世界レベルフィギュアスケーターを30年以上サポートした経験から、スケーターが気をつけるべきポイントを足首にフォーカスしてお話します。
フィギュアスケートと足首との関係性
フィギュアスケートは硬いスケート靴を履いて滑るので、足首には負担がかからないと思われる人もいるかと思います。
しかし実際には一番怪我が多く、一番厄介な部分とも言えます。
いまだに、人よりいっぱいアイスで滑る事が上達への近道と考えるスケーターも多いのですが、人気スポーツとしての歴史が浅いので練習するアイスリンクの数は限らており、東京近郊でも通年滑れるリンクは数カ所しかありません。
近年の人気の中、慢性的リンク不足が過度な練習時間の奪い合いとなって、日本トップレベル選手でない限り個人練習時間を確保できるのは午前1時から、というような状況になるのです。
学校とスケートで、ろくに睡眠も取れていないスケーターに、練習前後に十分なコンディショニングの時間を確保しなさいというのは基本的には難しい状況にあるのは明白です。
(学校が終わったら、親の車お迎えでリンク直行。練習後宿題等をこなして就寝。朝4時起きで朝練習に向かい、その後また学校への毎日)
結果的に、コンディショニングが十分ではない激しい練習は、発達途中のスケーターの体を直撃します。
あるスケーターは、私を訪れた際には長年全くケアせずに無理な練習に取り組んだ結果、シリアスな足の甲の問題を抱えていました。
厄介なのは、すでに世界大会で優秀な成績を残しているので、練習優先と思い込んでしまっていて、コンディショニングの重要性が全く理解されていない事。
さてでは、このようなスケーターにはどういったコンディショニングが適切でしょうか。
このケースを元に、私の考えるスケーターの足首のコンディショニング方法を説明します。
金メダルに導くマッサージセラピストの目線
◆症状
慢性疲労で、足の甲に疲労骨折を繰り返している。
試合前に練習量を増やすと足が腫れて試合当日スケートシューズに足を入れるのが大変な状態。
◆原因
ジャンプする踏切の際、全体重を勢いよく持ち上げる踵を上げる動きが、ふくらはぎや足の甲に大きな負担をかける。
ジャンプの着地で勢いのついた全体重をクッションのない氷の上で受け止めるのも、足首のストレスが大きい。
スピンなどバランスを要求される動きでは足の裏に慢性的な疲れが溜まる。
◆対策目標
- 足首幹部にかかる負担を減らす為に、足首、膝、腰の動きを良くする。
- この問題のメカニズムを本人に理解させてコンディショニングに興味を持たせてセルフケアを促す。
※ 慢性疲労の場合、疲れるスピードを上回る回復処置をするのが基本なので、練習前後を含め自分でケアするのが回復処置時間を増やし効率化するポイント!
◆コンディショニング方法
まず理解すべきは、足首関節の動きや構造。
・足首の基本可動方向
- 足首の甲側へ曲げる
- 足首を足底側に曲げる
- 足首を内側に曲げる
- 足首を外側に曲げる
可動方向が4つあるという事は、4方向へのコンディショニングが必要になります。
とは言っても、前述した状況の選手に、4方向への完璧なコンディショニングを強要するのは酷だと思いますので
優先してやってもらいたい効率的な方法をご紹介します。
足首への負担を和らげるコンディショニング
①足首の腱掴み
足首を甲側に曲げるとロープ状に筋が浮かび上がります。
その筋を掴んだら足首の力を抜いて左右に出来るだけ大きく引っ張ります。
筋が伸び切ったポイントで30秒ほどホールドし、これを左右に2回ずつ行いましょう。
②ヒラメ筋掴み
膝を曲げて右足を左足の上に乗せて4の字型にする。
足首上10cmくらいの部分を、横から親指で奥までぐっと深く押す(感覚としては、奥の硬いものに当たるまで深く押す)。
この2つをしっかりとやることで見込まれる結果としては以下の3点です。
- 足首の可動域が広がるので踏切が良くなり高いジャンプが跳べる
- 柔らかくジャンプの着地ができるのでジャンプ成功率が上がる
- 足首を柔らかく使えるので体のバランスがとりやすく、体の軸がしっかりするのでスピンが安定する。
この様な地味なコンディショニングでも、きちんとやっていき身についていくと、スケーターの長所短所が見えてきます。
そうすることで、本人も、コンディショニングの効果を実感できてモチベーション向上にも繋がるのです。
短所が明確に見えれば、集中してそこを補うコンディショニングを進めて次のステップへ確実に進みます。
これが金メダルに導く近道だと考えています。