マッサージセラピストが教えるコンディショニング (vol.2) TAD(青嶋正)のストロングポイント

前回は、金メダリスト含めて私がどのようなアスリートの皆さんをサポートしてきたか、そして私の基本的なコンディショニングに対する考え方、何を提供できるのか、についてでした。
今回は、そこに行きつくまで経験してきたことを紹介します。

オリンピック選手・バレリーナの絶体絶命のピンチ

ここまで話すと、「じゃぁ、どういう経験をしてきたんですか」と思いますよね。いくつか実際にあったことを紹介しますね。

例えば、明日オリンピックに出るという選手が、前日の9時くらいにお母さんと一緒に「足が動かないんです」と電話してきたことがありました。

バレリーナの方では、金曜日から白鳥の湖で踊るという国立バレエ団のバレリーナの方から、水曜日のドレスリハーサルの最中に「腰が動くて動けない」と携帯で電話がきました。

「痛いんだったら、今日はやめたらいいんじゃないですか」と私が言っても、「やめられない」と。その人はプリンシパルなので、20~30人という多くのダンサーを引き連れて踊るんですね。だから、自分だけやめればいいというわけでなく、みんなと練習しないといけない。その最後のリハーサルが今日の水曜日。なのに腰が痛くて動けない、だけどあと2時間やらないといけない、と。

こんな、絶体絶命の状況にある、トップアスリートの方々が僕のところに来てくれています。

さらに、僕の立場で難しい点は、そのようなナショナルスポーツやバレエ団、プロのスポーツ選手が所属しているグループには、当然僕のようなマッサージする人や、トレーナーと言われるような方、ドクターまでついていたりすることです。

僕のところ、そういう絶体絶命の電話がかかってくる時というのは、そういう方々からの処置がされている、それでもだめだったということですよね。

バレエダンサーの方も、その場所にはマッサージセラピストの方がいらっしゃるので当然マッサージを受けている。サッカー選手だってプロだったら、毎日そこで優秀なトレーナーの方々がついている。そういう中で、僕に電話をかけてお願いをしている。

その状況でどうにかしてほしいという依頼に、絶対に結果をださないといけない、そういう責任を感じてやっているんです。そして、こういうトップアスリートの絶体絶命のピンチと対峙してきた、選手と一緒に乗り越えてきた、この経験が僕のストロングポイント、特徴だと思っています。

「明日・次回がない」状況からの学び

そういう状況でアスリートの方々に接している中で気が付いたことがいくつかあります。

まず、「当たり前のことを当たり前にやるんだ」、ということ。

こういった難しい状況の時でも、別になにかすごい技を使うというわけではない。しっかり問診して話を聞き、バックグラウンドを理解し、体の状態を的確に検証し、正しいアプローチを施す、んです。

二つ目の学びは、最初にやらないといけないことはセーフティーの確保、ということです。

明日オリンピックに行く、10時間後には、カナダのピアソン空港を出発しないといけない。そういう方に私は何ができますか、ということを何回も経験してきました。どうしようかと思いますね、僕は神様じゃないんだし、なんでも治すっていうわけにはいかないんです。

いくら本人が行きたいって言っても、今後の選手生命に傷がつくのだったら止めないといけない。普通はオリンピックに行くことになってて、足が痛い・腰が痛いと自分からやめる人いない。僕はそういうなかでも、冷静に選手生命を守らないといけない。

こういう状況と、一般の患者さんと、違うのはなにかというと一回で必ず結果をださないといけないこと。アプローチ自体が一般の患者さんと違うわけではないんですが、例えばここにいる方でしたら、一回やりました、治りませんでした、明日もやりましょう・次回やりましょう」、ことができますよね。

その「明日・次回がない」時の方法をいっぱい経験しました。

こういう状況を経験すると、普通のマッサージセラピストだった以前の自分よりも、幸いにもぐっと成長させていただくことができたと思います。危機的な状況・修羅場で、自分が何ができるのか、を考え抜かざるをえないんです。

Cover Photo by Bayu Anggoro on Unsplash