過去25年間にわたる私の経験の中から
アスリートの方が金メダルを獲得するまでの経験からのエピソードを金メダルを獲るコツとして、数回にわたりご紹介します。
今回ご紹介するのは、「2年後の金メダルを獲るプロジェクト」として依頼された選手のケースです。
2年後にオリンピックで金メダルを獲るために
金メダルへのスタートライン
一番最初に把握した問題点は大きく3点でした。
- 本人、両親共に、コンディショニングの重要性の認識が低い(痛みなどを我慢して練習したり試合することに意義があると考える傾向があった)。
- まだ成長期で、体には十分な強度が無い(世界で戦った経験が少なく、必要とされるフィジカル+メンタル面の強さへの理解度が低い)。
- オールドファッションなカナダ人コーチが、この選手の強度を理解しておらず猛特訓をする気満々。
これら条件をクリアして金メダルを目指すには、どうすればいいのか?
私のアプローチは、ここからでした。
水曜日完全休養
私が始めに手をつけたのはコーチとミーティングの予約を取り「水曜日完全休養」の了承を得る事でした。
やる気満々のコーチの部屋での交渉は当然の事ながら難航しましたが、
青嶋「じゃっ!貴方の言う通り猛特訓させたら、金メダル獲れるって保証してくれるの?」
コーチ「それは…..出来ない…」
青嶋「それなら、黙って私の言うこと聞いて!!」
青嶋「こっちは、金メダル獲れなかったらテレビの前で謝ってりましたあげるくらいの覚悟はある!」
と啖呵を切りました。
何故こんな事をしたかと言うと、当時の私達のチームの読みとしては、周囲の諸々の状況から、選手は2年後に金メダルを獲るための必要な技術は有していると判断していたのです。
つまり、コーチにレベルアップしてもらうことよりも、このfragile な選手をどうやって2年間壊さないかが最大の課題であり、それを任されたのが私だったからなのです。
今だから話せますが、
実は、(先に説明した様に)「選手本人の、自身のコンディショニングに対する意識が低い」事から、このプロジェクトは不可能と判断し、この選手のサポート依頼を断った経緯があるのです。
その後すぐに、日本の有名なドクターから「全ての責任は私の看板の元で取りますので実際のサポートをお願いします」と直々に連絡をいただき引き受けたという、まるでドクターXのようなプロジェクトでしたので、私自身も自分のテクニックに過信する事なく「失敗しない」為に不安要因は一つ一つ潰すのが不可欠だったのです。
ここを見誤ると自分がサポートしている期間中に有名選手を怪我させてファンをガッカリさせる事になります。
この選手の場合、
土日の休養で楽になった体で月曜日の練習を張り切る。>>>
火曜日に疲れる。>>>
水曜日に怪我をする可能性が高い
というパターンを把握していたので、まずは、最大のリスク要因を排除する必要がありました。
彼が金メダリストとなった今も、このルーティンを守っている事から、
この時の判断が正しかったということは明らかです。
さらには、この一件の副産物として、世界で有名なコーチでも、少なくともコンディショニングに関しては知識、責任感共に欠けているということが
プロジェクトの始めから分かった点については、その後の私の作戦上有益でした。
導入した「水曜日完全休養」の真の意図は以下の通りですが、もしかすると、他の選手からは「練習していない」かのように見えて、油断させる効果もあったかもしれませんね。
- 怪我の予防をすることにより、無駄に練習を休むのを防ぐ。
- 週の真ん中に完全休養を入れたことにより体を疲れさせず毎日集中した練習が出来る様にする。
コンディショニングの浸透
次に取り組んだのは、過去25年間に延べ20人近くのオリンピアンをサポートしてきた経験を元に練り上げられた、私流の「コンディショニング」を選手に浸透させる事です。
過去のオリンピアンと同様、私の担当期間中は絶対に怪我をさせない為です。
その当時、この選手が雑誌インタビューで語った記事があります。
私にも言わせて頂けば、決して怖い事を言っているわけでは無く、当たり前の事を、理解して頂けるまで丁寧に言い続けているだけだったのですが。
金メダルを獲りに行くというのは、そのくらいの注意が必要である、ということは、過去25年間に嫌という程思い知らされていました。
アスリートの、心と身体のコンディショニングが整わなければ、結果として才能が開花する事は絶対無いと思います。
ピンと来ない人も多いと思うので、もう少し説明を追加します。
①何故アスリートにとってコンディショニングが全てなのか?
答えは簡単です。
どんなに選手に才能があっても、どんなに良い環境で世界トップコーチをつけても、大事な試合に自分自身のコンディションを合わせられなければ金メダルを獲る事はあり得ないからです。
②コンディショニングで一番大切な事
アスリートは、体格・体力・性格・生活環境などが皆違います。
出来るだけ、個人にあったコンディショニングをする事が一番大切です。
③ コンディショニングの方法
方法は色々あり、何がベストと言うのは大変難しいのですが、どんな方法であれ必ず私が取り入れるポイントは次の2点です。
- 目に見える判断基準を持つ
- 目に見える改善を毎回確認する。
この様なコンディショニングを行うと、毎日確実にコンディションが向上します。
これらを基本的に自分で行えるレベルにあれば、コンディションが安定して色々な計画が立てやすいですし、また、自分でやったコンディショニングで良い結果が出れば、選手本人の意識が変わってコンディショニングの質も上がります。
さらには、このフィジカルな変化は直接的にアスリートのメンタルを強くします。
練習での調子が悪い = コンディションが悪い = コンディションを整えれば練習の調子良くなる。
というシンプルなロジックが出来上がることによりスランプに陥るのを防ぐのです。
この様にフィジカル面だけで無くメンタル面迄も安定させるコンディショニングは、アスリートにとってファーストプライオリティとして取り組むべきである事を理解するのが金メダルを獲る一番のコツだと考えています。
この様なアプローチは、色々なフィールドで頑張っているアスリートやダンサーなど幅広い人達に、一度立ち止まって日頃の練習方法を見直すきっかけになると考えています。
Photo by Alex Smith https://unsplash.com/@mcghavan on Unsplash