足首のコンディショニングの重要性

足首のコンディショニング

アスリートのコンディショニングにおいて、私が一番大切にしているのは “足首” です。

理由は、全身を整える基準点として
①触りやすい
②見やすい
③変化を感じやすい
という点において、体の中で一番便利だと考えるからです。

ですが、現実に、世界で戦うトップアスリートに「足首から整えていくよ!」と言うと、大体「マジッ!」「今さら?」みたいな顔をされます。
これはつまり、基本的な足首の手入れへの重要性を認識出来ていないということを表していますね。

最新のトレーニング方法、よりspecific な方法を取り入れるのが良しとされる昨今の傾向ですが、それらの高度なテクニックは “基本的なこと” 出来てからの話です。

現状の見極めを行わずに高度なテクニックを取り入れても結果は出ないし、結果が出ないと選手本人は迷走してしまいます。
怪我のリスクも高まる。

過去30年間に私が出会った世界チャンピオンを含むフィギュアスケーターの中で、足首の手入れができていた選手は、残念ながら1人もいません。

なので、「足首から整えていくよ!」が第一声になるのです。

コンディショニングへの理解

次に大切にしているのが、私からの一方通行でなく、選手が理解して率先して行う双方向コンディショニングなので、今お話しした事を選手に押し付けるのでなく、納得してもらわないといけません。

つまり、私のメソッドを証明する作業が必要となります。
これについての一番簡単な方法は、硬い関節を私のメソッドで数分で目の前で改善して見せる方法です。
このような場合においても、足首は本人が見やすく感じやすいので都合が良いのです。

例えば、上向きに寝た状態で足首を床の方向に倒してバレエダンサーの様に綺麗なポジションで床を足の指で触れるかという実験をします。
毎日練習で疲労した足首は、足首の可動域が悪くなってしまっているケースが多い。
その動かない足首を選手本人に確認させた上で、私が5分程度かけて足首の動きを妨げる筋肉を緩め、バレエダンサーの様な柔軟な足首に変化させて、本人に再確認して貰います。

この様に私のメソッドの信頼性を目の前で示してあげると、選手との距離が一気に縮まり
一緒にコンディショニングをしていく関係が生まれて作業がスムーズになります。

つまり、コンディショニングの基本となるスタートラインを明確にする事が、成功への絶対条件なのです。
(ちなみにスタートラインは足首でなくても、全身をカバーするコンセプトが守られていればどこでも良いと思います)

セラピストも選手と同じリスクを

前述のとおり、私のメソッドの基本は、私が改善箇所を見つけて、
①改善理由
②改善方法
③改善した本人の感覚
などの全てについて、「これをするとココがこうなるよ!」と因果関係を先に説明して証明する事にあります。

この方法は、セラピスト側にも「予言を外した時カッコ悪い」というリスクが伴います。
しかし、人生をかけて競技に取り組む選手に対しては、セラピスト側にも一定以上の覚悟は必要です。
間違う場合もありますが、その時は、間違いを認めて謝り、早急に次の解決策を導くスタイルを貫いています。

スケーターの足首に対するコンディショニング

スケーターの場合の話を少し事例としてお話します。

メソッドをコンディショニング実施時に体感し、理解してもらうことはもちろん重要です。
次に大切なのは、コンディショニングをした翌日のスケーティングコンディションを感じて貰う事です。
長年不快に感じていた動きが改善された時、スケーター自身が一番実感できるからです。

ちなみに、具体的にどういったことを実感できるかというと、
足首の可動域を改善する → 踏み込みやすくなってスケーティングが良くなる → 踏み込みの動作がスムーズになる → ジャンプが高く跳べる
という変化を感じてもらうことができます。
これが、私が足首のコンディショニングにこだわる理由でもあります。

この流れができてくると、コンディショニングの度に
「今日は何の練習した?」
「上手くいった点、悪かった点は?」
「コーチに何を指摘された?」
「今日上手く行かなかった動きをココで見せて!」
などの状況を教えてもらえれば、経験則により、整える箇所は一層明確になっていきます。

この時点で重要なのは、スケート素人の目線でスケーターの問題点を見極める事です。
私はスケートコーチではなく、セラピストです。
ですので、スケーティングの良し悪しは関係なく、ジャンプが跳べないなどといった、いわゆる “出来ない” 動きに対して、動きを妨げているのは体のどの部分か?体に負担がかかっていないか?という思考でアプローチをします。

トップスケーターは多くの場合、技術的につまずいているのでなく、体が動かないのでコーチに言われる動作が出来ない事の方が多いものです。
この点を理解しないと、コーチは延々と同じ事をリンクで怒鳴り続け、選手は「言われた通りやってるよっ」とすれ違い、誰もゴールに導けない状況となり、無意味な負荷を体にかけ続けて選手生命が終わる最悪のシナリオとなる可能性もあるのです。

この様なストーリーが今現在も、世界的に知名度の高いコーチの元でも行われているのが現実です。
慢性疲労により引き起こされる選手生命の終焉は、当然誰も望まないものですが、
これが度々起こってしまうという事は、この問題が引き起こされるのを未然に防ぐのは非常に難しいということを物語っています。
なぜならば、そのコンディショニングの本質を理解している人が、ほとんど居ないからです。

コンディショニングの本質を理解しよう

様々な状況下で良い結果を求めるために共通していることは、人を当てにするのでなく自分でケアするのが一番確実だということです。

面倒かもしれませんが、このコラムでお伝えしているように、セラピストが予測して行う作業を理解し、効果を実感したのであれば、選手が自分自身で日々コンディショニングをすることは、コツがわかれば簡単で、最も効果をあげやすいのです。

なので、私のメソッドのゴールは、必要な情報を選手本人に理解して実行して貰う事にあります。

例えば、幼少期から足首の問題を抱えていたスケーターに対しては、痛みの止め方では無く
①なぜ足首の問題が起きたか?
②なぜ何年も同じ問題を引きずってしまったか?
の部分について掘り下げます。
練習前後にメソッドを実施する重要性を十分に説明し、本人に実行してもらい根本的に問題を解決していくことが大切なのです。
(その後世界試合で長年活躍する土台を作った実績があります)

最後になりますが、足首のコンディショニングは、足首だけでは完結しないと言う事をお伝えしたいと思います。

足首の良い状態を保つには足首にかかる負荷を下げる必要があり、その為には足首の動きに関連する部位にまでコンディショニングを広げて行く必要があるのです。
足首が硬い = 足首での衝撃吸収能力が落ち、ジャンプなどの運動パフォーマンスが直接的に落ちる。
足首で吸収出来ない衝撃は膝 → 腰と次々に伝わり問題を引き起こす、といったメカニズムを理解してもらうことも大切です。

これらがスタートラインを明確にして組み立てて行く私の足首のコンディショニングの考え方です。
当たり前といえば当たり前の話ですが、意外と見逃されているポイントなのです。

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