カナダ国立バレエ団から趣味でバレエをしてらおられる様々なレベルまで、多くのバレリーナと接して来ましたが、バレリーナのコンディショニングで1番難しいのは問題点の見極めです。
なぜか?
まず第一に、バレエという性格上、基本的に体に対する意識が高く、コンディショニングにも意欲的に取り組んでいる人が多い。
そして第二に、国立バレエ団においては、カンパニー内に治療施設も構えている。
では、その上で、なぜ私のクリニックを訪れてくれるのでしょう。
これに対する答えはもちろん個人差があり、ケースバイケースではありますが、多くの場合、
① マニュアル一辺倒のアプローチでは、中々改善出来ない
② 回復までの時間が十分にない
などが具体的理由です。
私は特別なアプローチ、強い刺激をする訳でなく、個人の状態を見極めた上で、基本に戻ってより丁寧に、より正確に、よりしつこくアプローチすることを心がけます。
左足首や右膝、腰を後ろに反るとき、右肩が痛いと言われても、
そのまま全部手をつけるのでなく、訴えの内容やバレリーナのに体の状況から、訴えの中にある「ストーリー」を読み解いて、優先順位をつけた上で、1つずつ丁寧に改善していきます。
正しい問題点を取り除くと、実態のないファントム(関連痛)と言われる痛みはドミノ式に消失します。
逆に、ファントムに惑わされると根本原因が放置されてしまい、近い未来には、さらに問題が大きくなります。
この見極めには、教科書がある訳でなく、所謂、経験値が1番頼りになります。
なので、バレリーナのコンディショニングで1番難しいのは、問題点の見極めである、と言えるのです。
バレリーナにとっての「足首」の重要性
さて、では、正確にコンディションを把握する必要があるとして、問題点を見つけにくいポイントはどこでしょうか。
1)動きからは見つけにくい
教科書に載っている様な体の動きのチェックをしても、基本的に関節や筋肉が柔らかいので問題点が見えません。
つまり、身体に不調があっても、教科書の正常基準を満たすくらい、ばれリーナにとっては容易いことなのです。
2)本人が問題点を認識しずらい
日々、気を使ってコンディショニングを行なっているからこそ、自分が見落としているポイントがあるとは思わないものです。
つまり、調子が悪くても問題点がわからない、という落とし穴に陥りやすいと言えます。
3)誤魔化すのが上手い
痛い所や動かしにくい箇所があっても、他人に気が疲れない程度には誤魔化して踊れてしまいます。
そうすると、動けるから大丈夫、という状況に繋がってしまいます。
こういった理由から、第三者がバレリーナの動きから問題点を見極めるのは非常に難しいと言えるのです。
この様な特徴のあるバレリーナのコンディショニングにおいて私が大切にしているのは、ズバリ「足首」です。
足首という基準を持ってコンディショニングすると、常に膝や腰と関連付けて考えたり、全身を抜け漏れなく管理しやすくなります。
それでは、バレリーナ向けの足首のコンディショニングをご紹介しましょう。
バレリーナ、足首のコンディショニング
上述、1)2)3)の問題点を解決するのに最も良い方法は、基本チェックポイントを手で触って、動きを確認してコンディショニングする事です。
ストレッチ時には感じられない、細かい緊張や違和感を見つける事ができます。
チェックポイント①
床に座って足を真っ直ぐ伸ばして足の親指で床が触れるか?を確認する
バレリーナといえどもなかなか難しい動作なのですが、見逃したくないポイントです。
少しでも可動域が制限されていると、怪我のリスクが高くなってしまうからです。
→緩めるコツ
- 足首を甲側に曲げると、ロープ状に筋が浮かび上がります。
- その筋を掴んだら足首の力を抜いて左右に出来るだけ大きく引っ張ります。
- 筋が伸び切ったポイントで、30秒ほどホールドします。
- 左右に2回ずつ行いましょう。
チェックポイント②
両足の内くるぶしの下を深く押してみて、硬いところがないか探してみる
足に疲れが溜まると、筋張った硬さが感じられます。
硬い部分を見つけたらケアしてあげると良いのですが、この時には、左右を比較すると硬さを判断しやすいでしょう。
→緩めるコツ
- 両足の内くるぶしの下を深く押します。
- 硬い部分を見つけたら1〜2分、痛くない程度に持続圧をかけます。左右を比較しながら硬さを判断し、さらに、左右の外くるぶしの下も、硬さを確認しましょう。
- 硬いところを見つけたら、揉むのではなく、筋張った箇所を1〜2分、痛くない程度に押し続けます。
チェックポイント③
足の形を見てみましょう。
上から足を眺めて、横幅が狭くないかどうか、確認します。
バレエシューズで、足を長時間締め付けた状態の練習が原因で起こるのですが、足の踏ん張りが利かなくなってバランスが悪くなっていたら、ケアが必要です。
→緩めるコツ
- 足の甲全体重を、丁寧にセルフマッサージしましょう。
- マッサージをした後に、足の指が開きやすくなっているかどうかを確認してみてください。
バレリーナの複雑な動きは、パーフェクトな体のコンディションの上に成り立つものなので、少しでも調子の悪い所があると、体に大きな負担してかけてしまいます。
問題点が筋肉レベルでなく、筋肉の一部分だけ。
関節に近い腱のの一部で動作の終わりだけ痛い。
一定の角度の時だけ痛くて、それ以外の角度は大丈夫。
など、見極めるのが非常に難しいので、チェックポイント①②③をベースとしたコンディショニングを毎日行い、日々の変化から問題点を見逃さないようにします。
コンディショニングに対する意識や知識が比較的高いバレリーナの陥りやすい落とし穴は、難しい方法をたくさん取り入れている割には、基本的な部分を忘れてがちである事。
この問題を防止するためにも体の見極め方法は簡潔にする、日々の変化や体の左右差を比較する、等の基本的なコンディショニングが、非常に有効なのです。
単純な方法ですが、自分で自分の体を触ってみて細かい変化に気づける様になると、コンディショニングに対する意識、しいてはバレエパフォーマンスの質の向上に繋がるのは明らかです。