退路を断った女子フィギュアスケート選手 オリンピックへの道(vol.5)

今まで4回にわたってご紹介してきた、日本を代表するフィギュアスケーターとなった彼女は、初対面の時から他のアスリートとは一味違う側面を持っていました。彼女は15歳で初めて私のもとにコンディショニングに来た時から、注文をつけてきたのです。

まだ若かった私は、一瞬「生意気!」と率直にいうと思いましたが、そんなことはお構いなしに、

「ここを、こうしてください。」と彼女から指示がきます。

私が、「ハイ、お疲れ様でした。終了!」と言っても、

「まだ、ここの緊張が取れてないのでお願いします」

と平気で注文して来ます。

そして、その注文内容が、いちいち的を得ているのです。

双方向スタイルのコンディショニングの目覚め

この彼女とのやりとりがきっかけとなり、今まで一方通行だった私のコンディショニングを改め、患者さんの体の反応を一回一回確認するという双方向スタイルを考案しました。

私のコンディショニングの、正確さと確実さを向上させてくれた大きな経験です。

そして、この経験は、その後オリンピック金メダルを導くコンディショニングへの基礎となったのです。

本人がコンディショニングを理解し、実践する

私がスケーターに出来る事は限られています。

この不足部分を補う鍵は、私側ではなくアスリート側にあることに気づいたことで、私のやるべき事が明確に見えたのです。

より良い結果を出すために、クリニック外でのアスリートをどの様にサポートするか。つまり本人が行うコンディショニングもセットで説明し、実践できるようにしました。

これは、普段コンディショニングしていても、予算などの関係で、肝心の海外試合の間にサポート出来ない状況に直面した際にも役立ちました。

私は日々のコンディショニングの中で、その意味やセルフケアを全て説明し練習します。なので、1〜2週間離れていても最低限のことは日々、アスリートが自分で対応できる状態を作り出すことができたのです。

そして副産物として、アスリート本人のコンディショニングに対する意識が高まり、好循環を生み出すのです。

この様な状況になると、コンディショニングの必要性を本人が本当に理解してくれます。

面倒なコンディショニングの虜になるには

一般の方はもとよりアスリートにも、面倒だと思われてします体のコンディショニング。そう思われてしまう理由は、その効果を実感して貰えるようなコンディショニングが出来ていないことにあります。

逆に言うと、その効果を伝える事が出来れば、本人がコンディショニングしたくてたまらないはずなのです。

きつい特訓することなく、自分のフィジカルがアップすることを嫌がるアスリートはいません。

  • 足首緩めて足が速くなる
  • 腰を緩めて体のキレが良くなったり、バランスが良くなる
  • 膝を緩めて垂直跳びがヤバイくらい高く跳べるようになる

このようなパフォーマンスの向上を、説明付きで実感してもらい証明してあげれば、どのアスリートもコンディショニングの虜になるのです。

退路を断った女子フィギュアスケート選手 オリンピックへの道(vol.4)

Photo by Alex Rhee on Unsplash

2回目のオリンピック出場に向けて、対策会議を兼ね、BBQを催しました。前回のオリンピックに出場を果たしていたこともあり、今回は出場するだけでなく、その舞台でいかに大きな成果をだすかという、今までとは違った対策会議となりました。

気が付くと彼女はフィギュアスケーターとしてベテランの域に入り、今までの実績からオリンピック出場を有望視されています。しかし、ここで新たな問題が発生するのです。

新たなるライバルスケーターの出現

国民的人気を誇り、実力も伴うフィギュアスケーターの出現です。もちろんスケートの人気が上がるのはいいことです。が、同時に周りの騒音が増えるということも意味し、気をつけなくてはいけない事も増えます。

そんな、新たなライバルの出現もあり、より険しい道となったオリンピックの日本人出場権争いを、彼女は今回も最後のチャンスである全日本優勝で勝ち取ることができました。

氷上のアクトレスとなり、メダルを目指す

彼女にとって2度目となるオリンピック出場。目標は、前回手が届かなかったメダル獲得です。マッサージセラピストである私は、スケートの技術的なアドバイスができません。が、オリンピックのステージでは、実力があるだけでは通用しないことも理解していました。

そこで幅広い分野で活躍するエキスパート・友人を集めて、再度対策会議を開きました。

スケートと関係がありそうなダンサー達はもちろん、直接の関係なさそうなフライトアテンダント・主婦まで、様々なバックグランドを持つ人々が集まります。

それぞれの’視点でのアドバイス。当然、アイディアは多岐にわたりました。

「観客をあっと!驚かす様なことをしよう!」

「見た目を派手にしたほうがいい!」

「開催国の気質をかんがえると、おもしろい方が良い!」

などなど。

白熱した議論の末、出た結論は以下のようなものでした。

  • 初めはバレないように、氷の上で膝を抱えて顔を伏せてうずくまった姿勢をとる。
  • そのポジションのままでは滑れないので、コーチに押してもらいリンクの真ん中に行く。
  • ミュージックスタートと共に、「ジャーン」と立ち上がると金粉に塗ったの顔メイクで観客の度肝を抜く。
  • 続けざまに背中に仕掛けた通天閣の模型が頭の上に「ビョーン」と飛び出て一気にジャッジと観客のハートを掴む。

彼女は氷上のアクトレスといわれるほど、表情豊かな演技が持ち味。艶やかな演技を繰り広げれば、メダルは間違いなしという考えでした。

コンディショニングだけでなく、包括的なサポートも

オリンピック出場経験ありの本人を前にして、フィギュアスケーターでない我々からのアドバイスで少々申しない気持ちもありました。が、一つのアドバイスとして捉え、「振り付け師とコーチに相談してみます」と明るく答える彼女を見て「大人になったものだな!」などと感慨深い思いでした。

マッサージセラピストとしてコンディショニングのテクニックを届けるのはもちろん、金メダルを目指すには精神面・多彩な視点という包括的なサポートも必要、というエピソードです。

退路を断った女子フィギュアスケート選手 オリンピックへの道(vol.3)

「えっ、オリンピック出場決定じゃないの?」

国際試合で好成績を残し、自分でオリンピック枠を一つ広げたので、てっきり出場決定かと思っていましたが、オリンピック出場への道は甘くありませんでした。ジャンプを勢いよく飛ぶ若手に最初の1枠を先に決められれ、残るひと枠を宿敵の日本人フィギュアスケーターと争う展開に。そして、彼女はシーズン通しての成績では分がわるかったのです。

またオリンピック出場チャンスも逃すのか

彼女に残された一発逆転の道は、最後の試合である全日本選手権で結果を出す事。

そして、多くの人の予想に反し彼女は土壇場で大逆転劇を演じ、念願のオリンピックへの切符を手にする事となるのです。

今までの雪辱を晴らす、見事な試合でした。

この小柄な彼女の体のどこに、あのメンタルの強さがあるのか不思議ですが、その後何十年間も近くで見ていて感じることがあります。本当のアスリートとしての強さとは、対外的に示すものでなく、本人が納得したアスリート人生を歩む事により、自然と自分の中に備わって来るということです。

自分の納得するアスリート人生とは?

自分の納得するアスリート人生を歩むには、いつも怪我をしている様ではダメです。自分に厳しくあり続け、練習よりも興味を持続し難い体のコンディショニングにも、時間を割くことが重要です。

考えてみると、過去25年間私が接してきたスケーターの中で、この部分にいち早く気づき、長期にわたり実践しているのが、フィギュアスケートで二度のオリンピック出場を果たした彼女だったのです。

結果として、スケーターとしては異例の長い現役生活をおくることとなった彼女。一般には知られてない事実なのですが、結果が残せなくなってきてからも、身体のコンディションを全盛期と同等に維持していたのは本当に驚きでした。

マッサージセラピストとしてできること

アスリートをある意味無責任に、結果だけで評価するのは簡単です。しかし、本来スポーツの持つ素晴らしさを、自身への向き合い方や、試合に挑む過程など、色々な形で私に見せて学ばさせてくれた彼女の偉大さを改めて感じています。

この経験から、各アスリートとしてのゴールを、単なる勝利ではなく、「自分の持つ最大パフォーマンスを発揮する」ことに置き、私はマッサージセラピストとして、アスリートたちの身体のサポートを実践しています。

退路を断った女子フィギュアスケート選手 オリンピックへの道(vol.2)

逃したオリンピック出場権、そして…

そんなストイックな彼女でしたが、オリンピック出場への最初の挑戦では、惜しくもその出場権を逃してしまいました。

そこで私が驚いたことは、そのすぐ後に、彼女がトロントに現れた事です。

まだオリンピック選手慣れしていなかった私は、かける言葉に困っていましたが、本人至ってサバサバ。

「結果はしょうがないので、次のオリンピックに向けて1日でも早くスタートした方が良いと思い来ました」と彼女は言います。

オリンピック出場はもちろん大きなこと、ですが4年後、そしてその後のオリンピックすら見据えていたのです

オリンピックに出場しての感想

その4年後、彼女は自分が国際大会で活躍することで日本の出場枠を広げて、オリンピックに出場、そして上位の成績を残すことができました。

ささやかながら、カナダのトロントの友人を集め、オリンピック出場おめでとうBBQを催し、最後に彼女からオリンピックの感想を聞くことになりました。

「えー、オリンピックの感想ですね。自分はメダルを逃したので表彰式を観客席から見たのですが、オリンピックというところは、あの表彰台に乗らなければ意味がない事を実感しました」

実は「開会式が凄かった」「どこどこの選手に会った」「選手村の食事が美味しかった」のような感想を予想していたので意外でした。

彼女のこのオリンピックの感想は、その後数多くのオリンピアンのサポートする際に、常に心に留めている言葉となっています。

オリンピックに出る、普段の自分を出すための体のコンディショニング

アスリートは、本人だけでなく家族も含め、オリンピックの表彰台に立つために全力で力を注いでいます。そんなアスリートにとって、オリンピックに出ることはお祭り騒ぎではなく、自分達の努力を形にする(したい)場なのだと、改めて感じました。

マッサージセラピストとしてサポートする立場の私は、この事を肝に銘じ、アスリートに納得のいく現役生活を送ってもらう事を心がけています。

実際のオリンピックイヤーでは、予想外の色々問題が発生したり、ライバルとギリギリの線での争いになります。そんな時こそ、普段の自分を試合で出す難しさを痛感する事になるのです。

困難な状況でも自分を出さないといけない、そんなときに誰しもコンディショニングの重要性を実感するのですが、その状況になって初めて気づいたのでは時既に遅しです。

このような失敗を避ける為に、アスリートには時間的な余裕があるうちに(そして怪我もないうちに)体のコンディショニングのコンセプトを理解してもらいます。身のあるコンディショニングができる下地を作ることが、金メダルに導く第一歩だからです。

退路を断った女子フィギュアスケート選手 オリンピックへの道(vol.1)

わたしのマッサージセラピストとしての考え方に影響をあたえ、金メダリストを導くことができるようになった礎となる原体験があります。のちに誰もが知る、日本を代表するフィギュアスケーターとなった彼女とのエピソードを、5回に分けて紹介します。

彼女と同じようにトップアスリートとしてオリンピックや世界選手権などを目指す方にはもちろん、現在の自分からのステップアップを考えている多くの方も、彼女のストイックな姿から得るもの・感じるものがあると思います。

のちのトップフィギュアスケーターとの出会い

「よろしく お願いしま〜す」

ママと一緒に、クリニックを訪れたスケーター。

そのとき若干15歳。

ちょっと頼りない感じ。

「この子は、フィギュアの厳しい世界では生き残れないだろうな」 わたしは内心で、そう思ったのを覚えています。

ママはこの子をトロントにおいて日本に帰るということで、週末の食事を通して早速見守ることになりました。

退路を断ってオリンピックを目指す

直接話してみると、予想外にしっかりしていた彼女。

「日本の連盟に逆らってカナダに来ちゃったので、私がスケーターとして生き残るには、世界で勝つしか無いんです」と逃げ道を絶ったとの発言。

フィギュアを取り巻く状況は、当時は今とは全く違って、周りにチヤホヤしてくれる人もいないマイナーな部類のスポーツ。海外での生活を全て一人でこなしていかなくてはいけません。

海外試合の更衣室では、外国人選手の透き通る様な白い肌の色や、ボディーサイズの違いに気後れしたと彼女は言います。まだ、日本人が世界大会で表彰台に乗れるとは誰も思わない時代だったのです。

自分の意志でカナダに来た以上、スポンサーにも頼れず、限られた個人資金でまかなうことで、生活、そして練習をしなければならない。

あまり知られていないことかもしれませんが、フィギュアスケートという競技は、想像以上にお金がかかります。

金額の大きさに、「なんで、そんなに!?」と思いますが、アイスリンク代、コーチ代、衣装代、スケート靴代、振り付け代、それに伴う移動費などなど、すべてのコストを合計してみると凄い金額になるのです。

世界とのギャップ、金銭的な負担、周囲からの限られたサポート。このような困難を克服しつつ、世界で戦っていくことを覚悟した15歳の女の子との出会いでした。

将来トップアスリートとなる片鱗

そんな彼女と過ごし始めて私がすぐに気づいたこと。それは、この15歳の少女は、この状況を理解し、自分に厳しいという素晴らしい素質を持っていることでした。

彼女は常にベストな状態で練習が出来る様に、いつでもコンディショニングを怠りません。今のように専属トレーナーなど、ついていない時代の話です。

(彼女とはその後、数十年に渡る付き合いになるのですが、今でもその姿勢は変わらず、朝起きると十分なストレッチを必ず行ってから活動を開始します)

この彼女との経験が、私がアスリートにしつこく「基本的コンディショニングの重要性」を説く起源となっています。

フィギュアスケートを牽引するエースからのバトン

長年アスリートのサポートに携わっていると、世代交代の場面にも遭遇します。上位を目指している時は、ガムシャラに突き進むだけで済みますが、トップポジションにいる選手は自分の事だけ考えているわけにもいきません。なぜかというと、ナショナルチームを牽引する役目を担うことになるからです。

フィギュアスケートのナショナルチームを牽引するとは

フィギュアスケートの国際試合で自国チーム勝つ可能性を高めるためには、その国からより多くの確保が必要となります。一人の選手に頼ると、どうしても成績に好不調が出てしまうからです。

自国出場枠の数を増やすには、多くの場合ナショナルチームとして総合成績を良くする事が要求されます。結果として、本来は自身のライバルでもある後輩アスリートの成績にも気を配る必要があるのです。

ライバルのパフォーマンスも考慮すると、下手をすると自分の首を絞める行為。なので、先輩選手全員が出来るわけでは無いと思われますが、かつて美しい光景に遭遇した事があります。

オリンピックのフィギュアスケート出場枠をかけて

この時、オリンピックの出場枠のかかった試合で日本チームの出だしが不調。このままでは出場枠が狭くなってしまう状況でした。

アリーナからの帰りのシャトルバスの中で、悪成績に落ち込んでる後輩は先輩選手から声をかけられました。

「俺は、怪我もあるから、悪いけどこれで精一杯」

「この試合は、お前が頑張って日本の出場枠増やしてくれ!」

と、まるで先輩からのバトンを渡してくれるような言葉をかけてくれました。

正直に申し上げて、私達のチームは後輩チームをサポートすることが役目だったので、恥ずかしながらこの先輩選手をある意味敵視し、自分達チームの成績だけ考えていたので、驚くべき行動でした。

しかし、強烈にライバル視する一方、いままで目標としてきた憧れの選手である事に変わりはありません。この言葉は、私にはもちろんのこと、後輩スケーターの心に届いた様子でした。

日本ナショナルチーム、出場枠の獲得

翌日の試合、後輩スケーターは、普段見られる「あそこが痛い」などの意識が散る癖が収まり試合に集中する事が出来きました。日本チームは出場枠を増やす事に成功しましたのです。

この1つ増やした出場枠が、結果として激戦となった翌シーズンでのオリンピック出場権争いで、苦しい立場になった自分自身を救い、オリンピックで本番の好成績へと導く事となったのです。

後のチャンピオンを生んだ、先輩エースの言葉

この経験から、トップアスリートの好成績への道は、先人・先輩を含む、色々な人のサポートの上に成り立っていることを実感させられました。

また、このエースの言葉がなければ、後のチャンピオンが生まれていなかった可能性があると考えると、個人競技においても、ナショナルチームのエースに求められることは、自分本位でなくチームのためにも戦える選手になること、を学んだエピソードでした。

バレリーナの足首と、矯正マシン

「バレリーナ矯正マシン」、聞き慣れない人が多いですよね。

バレリーナ矯正マシンとは、爪先までピンと足首を伸ばしたポジションが綺麗になるように、バレリーナの硬い足首を柔らかくするとされている機器です。

バレリーナ矯正マシンを使うと

筒状の機器の中に足先を入れると、自動的に足首を足の裏側に引っ張ります。引っ張って足首を柔らかくする事により、伸ばしたポジションが綺麗になる、と謳っています。

バレリーナであればみんな憧れる、甲の出た綺麗なポイントポジションを目指して利用している人も多くいます。

バレリーナの足首へのアプローチ

色々な意見があると思いますが、コンディションやサイズが違う足を一つの機器で治すのには無理がある、というのが私の個人的な意見です。

バレリーナにとって、大切な足首のコンディショニング。安全で自分に合った方法を選択することが大切です。

基本的なアプローチとしては、脛の外側の筋肉に着目します。

綺麗なポイントポジションを妨げる原因は、脛の外側に付いている筋肉の硬さなので、この場所を正確にコンディショニングすれば、多くの場合、自分で改善する事が出来ます。

同時に、この脛の外側についている筋肉は、ストレッチで伸ばしにくい為に,多くのバレリーナが悩んでいるポイント。(だからバレリーナ矯正マシンが話題になるのですね)

ここでは、ストレッチではなく、確実にアプローチする方法をご紹介します。

【Tad式アプローチ】バレエの綺麗なポイントポジションを作る方法

  1. 前脛骨筋をセルフマッサージで緩める。
  2. 足首を背屈(甲側に反らす)し、足首の前面に浮き出てくる腱をつかんで1分ほど横に押す。

一見すると単純なアプローチですが、その効果は絶大です。この方法を自分で実行したバレリーナが、通っているバレエ学校で一番綺麗なポイントをすると評判になっていることからも、このアプローチの効果は証明されています。

(ちなみに、もともとこのバレリーナが私を訪れた理由は、まさに「綺麗なポイントが上手く出来ないんです」だったのです)

厳しい練習を積むバレエだからこそ、確実なアプローチを

単純な方法ですが、バレエのきれいなポイントポジションに影響を与える体の構造を理解し、ターゲットに確実にアプローチする方法によって、自分自身で改善することができます。

長年厳しい練習を積むバレリーナだからこそ、確実にアプローチすることによって手に入れるコンディショニングは、綺麗なポジションを作りだけでなく、怪我を防ぐ上でも非常に大切です。

肩こりを根絶するストレッチ

多くの人が日常的にかかえる体の悩みの代表である、肩こり。

肩こりの直接的な原因の一つが「肩甲挙筋」という筋肉です。下のイラストにあるように、肩こりに大きな影響を与える筋肉にしては、わりと小さくて細い筋肉なのです。

肩甲骨の上角から、首の骨の横についていて、肩甲骨を引き上げる役目をはたしています。デスクワークなどで肩のポジションが長時間上がっていると、この筋肉が慢性的に萎縮して肩凝りが発生しやすくなります。

肩こりの原因、肩甲挙筋へのストレッチとは?

「この筋肉のあたりを揉んでもらえば気持ちはいいし、効くのでは」と思いますが、本質的な問題解消にはなりません。

なぜならば、肩甲挙筋が萎縮する原因は、この筋肉だけでなく大菱形筋、小菱形筋など、同じような働きをする筋肉グループが関係するからです。この筋肉グループが肩甲骨を上に引っ張り、肩甲挙筋が萎縮した状態を固定化している状態を解決するには、やはり筋肉のグループにセットとしてアプローチする必要があるのです。

【Tad式アプローチ】肩こりの根絶のためのストレッチ

まず肩甲骨を大きく動かすことが大事です。それによって、肩甲骨と背骨のあいだを繋げるグループをまとめて緩めます。

動かす方向は三つです。

1)背骨方向+逆方向

腕を背中側で組んで肩甲骨の内側同士をくっつける動き。

その反対に、腕を体の前で組んで両肩甲骨を外側に引っ張る。

2)首方向+逆方向

手を組んで上に伸ばして肩甲骨を引き上げる動き。

手を組んで下に伸ばして肩甲骨を下げる動き。

3) 大きく回転する。

両手を肩の先端においてひじの先出大きな円を描く。

【Tad式アプローチ】ワンランク上の肩こりコンディショニング

肩周りのストレッチをしても取れない緊張がある場合、肩の部分ではなく、肩甲骨の内側の緊張を緩めることが重要です。

背中で手を組み腕を伸ばした時に肩甲骨がボコッと浮き出てくれば合格ですが、多くの人は一部分もしくは全体的に肩甲骨の内側にラインが浮き出ません。

背中で手を組み腕を伸ばした時に、肩甲骨がボコッと浮き出てくれば合格。ですが、多くの人は肩甲骨のラインが浮き上がらないのです(理想は肩甲骨全体の内側に全体的にラインが浮き上がる状態です)

浮き出ない部分=頑固な肩凝りの根本原因。第三者にマッサージしてもらったりして、肩甲骨内側にピンポイントな改善を行う事が、ワンランク上ののコンディショニングに繋がります。

「肩がこる」をなくすために

この様なアプロー地で肩甲骨を緩め、360度自由に動かせる状態にする&キープすれば、肩凝りとなる筋肉の緊張が慢性化する事はなくなります。すなわち肩がこることがなくなる、のです。

肩甲骨のコンディショニングは肩凝り根絶のキーポイント。

肩が凝っているところを揉んでもらって一時的に症状をごまかすのでなく、肩凝りを引き起こす原因である肩甲骨まわりの筋肉グループのコンディショニングをマスターすれば、肩凝りを根絶することは可能です。

体のコンディションの松竹梅 コース

体のコンディショニング・ストレッチといっても体には個人差があるので、自分の体や目的に合った方法をとるのが大切です。

いくらストレッチの本を買ってもなかなか自分にぴったりはまらない。そのようなときは、必ずしも本の内容が悪いのでは無く、私たちの体のコンディションが一人一人異なることが理由であることが多いのです。

自分が目指すのは、松竹梅のどのコースか?

自分が松竹梅コースの、どこを目指すかを決定する必要があります。

【Tad式】松コース

  • 十分に管理された体で、さらなる高み・少しでも伸び代を開拓する。
  • 将来的に想定される故障を未然に防ぐ目的で将棋の様に数十手先を見据えたコンディショニングする。
  • 現状足りない部分を補う場所や方法を、本人の体や環境を含めたバックグラウンドから探り出して対策するレベル。(コンディショニング方法を指導するレベルは越えている前提)
  • 本人が気がついていない問題点にも対応するアプローチをとる。

【Tad式】竹コース

  • 体重をかけてストレッチするなど、負荷を加えたコンディショニングで機能向上を目指す。
  • 関節の最大可動域まで丁寧にストレッチすると筋肉だけでなく、腱を緩める効果も見込まれます。
  • しかし、負荷をかける方向や、場所、強さを間違えると、効果が見込まれず怪我の原因となるので、指導された方法を自分の体に合った方法に調節するなど、細かな対策が必要です。

【Tad式】梅コース

  • あまり強く刺激せず、ウォーミングアップ程度のコンディショニング。
  • 関節に負荷をかけずに、自分で足首手首をクルクルする程度。
  • 怪我の危険も少なく万人向け。
  • 現状維持を目的とします。反面、多くの効果は期待薄です。

アプローチの順番

体の状態が伴わずにいきなり松コースをスタートしても危険が増すだけで意味ありません。

焦らずに梅コースからスタートすることも大切。

長年コンディショニングをしているのに一向に効果の得られない場合も、問題点を洗い出す意味で梅コースから再スタートするのも良い考えです。

基本的に関節等に異常がない限り、コンディショニングしているのに少なくとも柔軟性が長年改善されないのは方法が間違ってる可能性が高いからです。

National Ballet of Canada(カナダ国立バレエ団)

長年、カナダ国立バレエ団のサポートに携わり、4人のプリンシパルダンサーを含む数多くのダンサー達と知り合いました。

私の立場は少し変わっていて、カナダ国立バレエ団の最期の砦的なポジションにあります。

Principal Dancer Skylor Campbell

バレエ団の最後の砦

どういう意味かと言うと、バレエ団の中には専属のセラピストが居るので、通常ダンサー達は、そこでお世話になります。しかし「長期間症状が改善しない」「ショーの前に絶体絶命な事が起こり、手に負えない」のような事態になったら、私の出番です。これは、バレエ団のセラピストとも暗黙の了解事項でもあります。

時間的に余裕のない中での対応と判断が要求される、責任が重いポジションです。

対応不可であれば、早く判断して決断してあげないと、代役ダンサーの手配などショー全体に影響を与えてしまいます。

Principal Dancer Harrison James Wynn

絶対絶命の状況下で心がけること

このように正しい判断を、限られた時間ですることが要求されている状況で、私が心がけていることが5つあります。

  1. 正確なコンディションの把握
  2. 詳細なトリートメントプランの提示
  3. 最善/最悪シナリオの説明
  4. トリートメント結果の正直な報告
  5. できないことをを認める勇気を持つ

明日のショーに直接影響をあたえるかもしれない、絶体絶命の状況下だからこそ、ダンサーと彼らのコンディションに真剣に向き合う必要があります。セラピストからの一方通行のトリートメントではなく、ダンサーにも頑張ってもらう双方向のトリートメント。それを徹底することで、回復させる可能性が非常に低いコンディションの状況でも乗り切ってきました。

First soloist Emma Hawes

一流のバレエダンサーのサポートを通じて学んだこと

カナダ国立バレエ団という一流のダンサー達をサポートすることを通じ、「自分のテクニックに自惚れるな」と常に戒めてくれる経験を得ることができました。ダンサーとコンディショニングに向き合い、双方向のトリートメントをおこなうこと。25年以上トロントでマッサージセラピストとしてやってこれた礎となっています。

高いレベルでのパフォーマンスを保つ必要があるアスリートの方はもちろん、彼らのコンディションを預かる方にも、上記の5つのプリンシプルが参考になればと思います。

Mr. Long leg Giorgio Galli